紅葉シーズンの大出沢を歩くツアーに参加したのは、まだ朝露が残る早い時間だった。赤や黄色に染まった木々のトンネルをくぐるように進んでいくと、空気そのものが甘く冷たく感じられた。
ガイドの佐藤さんが、ある場所でふと足を止めて「ここで少し待ちましょう」と言った。特に何があるわけでもない、ただの森の一角。正直、最初は意味がよく分からなかった。それでも彼女に従って、黙ってその場に立っていた。
紅葉の森の中、枝にとまる野鳥
5分、10分経っただろうか。木々の奥から、小さな鳴き声が近づいてくるのが分かった。そして、鮮やかな黄色の羽をしたヤマガラが、すぐ手が届くような枝に止まった。こちらを一瞬見つめて、また飛び去っていった。
「野鳥は、こちらが動けば逃げてしまいます。でも、静かに待っていれば、彼らの方からやってくることがあるんです」と佐藤さんは教えてくれた。急がず、ただその場にいることの豊かさを、初めて実感した瞬間だった。